甘くない砂糖菓子2
ミンサガ
もう帰る
「ねえねえ、砂糖もう一つもらっていい?」
ロレンジタルトを食べ終わっって紅茶にミルクを注ぎながらアイシャはテーブルの上に置かれた角砂糖を指しながらグレイに尋ねた。
小皿に置かれた砂糖は3つ。どっちかが余分に貰う事になる。
「別にかまわないが、ミルクを多めにもらうぞ」
と言いながらアイシャの了承を得るまえにジャーに残ったミルクを全部注いだ。
「ああ〜!ずる〜い!!」
アイシャは抗議するが、一刀両断された。
「砂糖二つのほうがずるいだろう」
「む〜」
もっともな意見なので、アイシャは押し黙った。そして、獲得した余分な砂糖を落としながら呟く。
「それにしても、意外だなあ。グレイが甘党だなんてさ〜。」
「何が意外なんだ?」
「だって、普通は男の人って甘いの嫌いだっていうじゃない?」
と言った後で、目の前のにいるのは普通の範疇から大分外れた人物だったと思い出したので、比べるのもおろかな事だったなと感じた。案の定、やっぱり反撃された。
「女が全て甘い物が好きなわけでもないだろう」
「ああ」アイシャは納得した様に言った。
「バーバラとかね」
その一言に珍しく表情を変化させたグレイはため息とともに呟いた。
「・・・味覚が壊れた奴を比べる対象にするな」
「ああ・・・あはは、この間のあのケーキ、あれは酷かったね」
一ヶ月前の大惨事を思い出しながら、力弱く笑った。
「どうやったら、生クリームとマヨネーズを間違えられるんだろうね。普通、味見したら気付くと思うんだけどな。」
「だから、味覚が破壊されているんだ。それに、今に始まった事じゃない」
「そうなの?」
諦念したように言うグレイに、興味深々にアイシャは尋ねた。
「砂糖と塩を間違えるのは何時もの事だ。つまり、ケーキが甘くないってのは良くある話だ」
「え〜、甘くないケーキなんてケーキじゃないよ!!」
アイシャはとんでも無いという風に素っ頓狂な声をあげた。
「それだけなら作らせなければいいんだが、質が悪い事にバーバラは料理が好きなんだ」
「ああ、下手の横好きってやつだね!」アイシャは身を乗り出すように断定した。
あまりにも的を射た言葉だが、グレイは若干憮然としたように嘆息する。
「・・・・そうだな。実害がなければそれでも構わないんだがな」
「そうだね、ジャミルの変なダンスは見ても別にお腹壊したりしないもんね。」
あははと最後に笑いながらアイシャはそこで話を終わらせた。
すると、突然さっきまで白熱していたのが嘘のようにふっと沈黙が訪れた。
その間に冷めかけたミルクティーを口にする。
乾いた喉を潤したところで、アイシャはふと思い出した。
「そういえば、3日ぐらい前に食べたケーキは、普通だったよね。」
「そうだな、若干甘すぎたが、普通だったな」
先ほど、アルベルトとバーバラの会話の中で出てきた、「砂糖を倍以上入れたケーキ」のことだろう。
倍以上砂糖が入っている時点で普通ではないし、「若干」どころの甘さでは無いと思われるが、二人とも度を越した甘党なので、それは特に問題視されなかった。
「ジャミルは一口で限界だったらしいが」
「ジャミルは甘いの嫌いだからね。でも、アルなんて、もっと嫌いだよね。ケーキときいただけで、あからさまにいやそうな顔をして、食べようともしなかったもんね」
アイシャはここまで言ってから黙りこんだ。
今まで、ケーキのお陰で忘れていたが、突然さっき、路地で見かけた光景を思い出したのだ。
グレイはそんなアイシャの様子を怪訝に思ったが、自分からは何も言わなかった。
黙っているという事は言いたくないのだろうし、そもそも、自分から話を振るのは苦手だった。
5分ほどそうしていただろうか、アイシャが口を開く
「バーバラってさ、素敵だよね。」
「それを否定するつもりは無いが、いきなり何だ」
唐突な質問に、グレイ戸惑ったが、表には出さなかった。・・否、微妙に隠しきれていない様子が言葉に現れていたが、それはアイシャには気付かれなかったようだ。
アイシャにはそんなことよりも気になる事があった。そしてそれがずっと・・否、食べている間は忘れていたが、心に引っかかっていた。
だから、この質問をぶつけるのは微妙に躊躇ったが、やがて思い切ったように質問をぶつけた。
「うん、あのね、やっぱり男の人て、バーバラみたいな人が好きなのかな?って」
「・・・・・」
答えは沈黙で返された。
馬鹿な事を聞いてしまったかと思い、アイシャは相手の顔を恐る恐るみたが、珍しいことだが、微妙に驚いたような表情を発見して、気分を害した訳ではないという事は分かった。

「何か・・・あったのか?」
グレイはアイシャの様子が気になったのか、そう聞いたが、
「ううん、何でもない!」

アイシャはいつものように元気にそう答えるだけであった。

きっと、この人なら何を言っても黙って聞き、短く的確に何かアドバイスしてくれるだろう、という事は、これまでの長いとはいえない付き合いからも判っている。しかし、だからこそ相談するのがためらわれた。

この問題は自分で解決しなければならない。
時間はかかるだろうけれど、ケーキのように甘くはないけれど・・・
しばらくはそれを味わうのも悪くないと、アイシャは考える事にした。


2007年 ありがとうございました!
微妙な終わりですみません。
もう帰る


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